NPOとの協働に関する手引(平成14年3月)
~豊かな地域社会の創造を目指して~
目次
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はじめに
- 21世紀を迎え、少子・高齢化、国際化、高度情報化などの社会情勢の変化への対応に加え、地方分権の推進、厳しい財政状況など、県政は多くの課題を抱えています。また、多様な価値観やライフスタイルを反映し、県民の公共サービスに対するニーズは、ますます多様化、個別化し、増大する傾向にあります。
- 生活及び個性重視のよりよい地域社会づくりが求められている中で、私たちは、このような課題やニーズに対してどのように対応していくのかを真剣に考え、取り組んでいかなければなりません。その切り口の一つとなるのが「NPOとの協働」です。
- 近年、自ら行うべきことを考え、自らの意思で社会に参加しようとする市民によって組織されたNPOの自主的な活動が広まりつつあります。そして、公共サービスの面でも様々な取組が始まっています。
- 多様化し、増大する県民のニーズに応えるためには、行政だけでは対応が難しい部分もあり、また、NPOと一緒になって取り組むことによって、よりよい成果を上げることができるものもあります。
- この手引は、より豊かな地域社会づくりを目指して、職員のみなさんに、NPOとの協働に関して理解を深めていただくため、協働の意義や課題、さらには、協働を進めるにあたっての留意点等についてお示しするものです。
- 本書を通じて、職員のみなさんにNPOとの協働について考えていただければ幸いです。
平成14年3月
石川県県民文化局長 中西吉明
第1章 NPOとは何か ~NPOを正確に理解することが協働のはじまりです~
- NPOの定義について
NPOとは、英語のNon-Profit Organization の頭文字をとった略で、日本語に訳すと「非営利組織」となります。株式会社などの営利を追求する企業とは異なり、文字どおり営利を目的としない組織ということです。
国や県をはじめとする自治体も同じ非営利の組織ですから、これらと区分するために、NPOは「民間非営利組織」と通常呼ばれています。
なお、特定非営利活動促進法(NPO法)により認証を受けた特定非営利活動法人(NPO法人)のみがNPOと思われている状況がみられますが、法人格を持たない任意団体も要件を満たしていればNPOと呼ばれます。
平成12年8月に県民文化局において策定した「NPO活動の促進に関する基本指針」では、NPO活動を「社会的な使命の達成を目的に、市民が連携し、自発的かつ非営利で行う社会的、公益的活動」としてとらえ、そうした活動を継続的に行っている民間の組織、団体を「NPO」と定義しており、政治・宗教活動を主目的とするものや特定の個人・団体の利益を目的とするものは除くことにしています。したがって「ボランティア団体」、「市民活動団体」、「NGO」などが該当することになり、本書でも、このような定義によりNPOをとらえています。
NPOについて要件をもう少し詳しく説明すると次のとおりです。- (1) 営利を目的としないこと
「営利を目的としない」というと、利益の上がる事業をしないこととよく勘違いされます。しかし、これは企業が上がった利益を株主や社員に分配することを目的としていることに対して、「利益が上がっても関係者に分配しない」という意味です。利益の上がる事業を行っても、その儲けを関係者に分配せずに次の事業や活動に充てる場合は「非営利」ということになります。
実際に、介護サービスを有料で提供したり、ものを販売して利益を上げ、活動資金に充てているNPOはたくさんあります。NPOだから有料でサービスを提供してはいけないとか、ものを売ってはいけないということではありません。
なお、NPOが活発に継続的に活動していくためには、有給スタッフが不可欠ですが、労働の対価として支払われる給与、賃金等は「利益の分配」にはあたらず、活動の必要経費とされています。NPOの目的NPOは何を目的に活動しているのでしょうか。
それは、利益の追求ではなく、社会的な使命(ミッション)の実現にあるのです。
社会の様々な課題に対して、自ら何を行うべきかを考え、自らの意思で活動を起こさずにはいられない人たちが集まって、社会的使命を達成しようと活動する組織体をNPOと呼んでいるのです。 - (2) 組織であること
フォーマルな「組織」であることがNPOの重要な要件の一つになります。会則があり、代表者や役員を置くほか、会計・経理がきちんとなされるなど組織的な整備がされていることが必要で、そのようなものがない一度限りの集まりなどはNPOとは言いません。
また、NPOとボランティアの違いが分からないという声がよく聞かれます。いずれも、自主的、自発的に非営利の活動を行うということでは同じですが、基本的に、NPOは組織、ボランティアは個人を指します。行政は組織ですから、協働の相手方は組織であるNPOとなることに注意が必要です。NGOとNGOの関係NGOとNPOがどう違うのかということがよく言われますが、NGOはNon-Governmental Organization の頭文字をとったもので、日本語に訳すると「非政府組織」ということになります。
NGOは、もともと国連で使われはじめた言葉で、国連では国際的な問題を解決する担い手として、早くから政府とは別の民間組織としてその役割が認められてきました。また、最近では、地球サミットや地球温暖化防止京都会議などの国際会議で、政策立案者として政府と並び重要な存在となっています。
このように、NGOは政府ではない民間の市民による組織、つまり非政府という観点から使われている用語であり、当然に利益を目的とする組織ではないことから、本質的にはNPOです。
最近は環境、人権、教育などの国際協力の分野で活躍するNPOをNGOと呼ぶことが多くなっています。
- (1) 営利を目的としないこと
- NPOの特性
NPOは「自主性」、「個別性」、「先駆性」、「迅速性」、「柔軟性」、「多元性」など種々の特性を持っており、行政の持つ公平性や企業の利潤追求という社会的価値にとらわれず、社会的課題に対して、迅速で先駆的な取り組みができると言われています。それぞれの組織が持つ多様な価値観に基づく自由な意思により、個別的で柔軟なサービスの提供が可能です。また、こうした取り組みから社会への問題意識を持ち、行政や企業に対して市民の立場からチェックをし、独自の提言が行えるのもNPOの特性と言えるでしょう。
(図-1)
このようなことから、NPOは、行政(第1セクター)、企業(第2セクター)と並ぶ第3のセクターとして期待され、これからの社会では、これらがバランスよく機能していくことで、豊かで活力のある社会が構築されていくものと考えられています。
NPOとの協働を進めるうえにおいて、この3つのセクターの特性の違いを理解しておくことは、大変重要なことです。
なお、第3セクターという言葉は、わが国では国や自治体と民間企業等が共同出資で設立した事業体を指すとの考え方が一般的ですが、前述の観点からNPOなどの「市民セクター」も第3セクターと呼ばれるようになっています。
3つのセクターについて次のような図式が参考となります。主 体 理 念 価値観 行動原理 サービスの質 第1セクター 国、地方自治体 公益 社会的使命 平等・公平 画一的平均的 第2セクター 企業 私益 経済的価値 利潤追求 対価に応じて 第3セクター 公益法人 公益/共益 社会的使命(経済的価値) 公平・効率 平均的+対価性 NPO 社会的使命(個人的、経済的価値) 機動性 個別・多様 (出典:「自治体-NPO政策」松下啓一著 ぎょうせい)
第2章 NPOと行政の協働 ~NPOとの協働はなぜ必要なのでしょうか~
- 協働の意義
NPOと行政は、ともに非営利・公益分野を担い、社会的・公共的課題を解決する存在です。その目指すところは、よりよい地域社会づくりであり、県民福祉の向上であって、いずれも同じと言えます。その意味で、NPOと行政は様々な分野において何らかの関係を持ちうるものと考えられます。
NPOと行政の協働とは、相互の立場や特性を認め、共通する課題の解決や社会的目的の実現に向け、積極的にサービスを提供するなどの協力関係を言います。
各々が役割分担を理解したうえで協働を進めることにより、公共サービスの内容をより豊かに、また、効果的なものとすることができたり、効率化することでコストを低減できるなどの効果が期待されます。
NPOと行政が、公共サービスの質や量の向上を目指し、協働していくことは、県民生活を向上させるうえにおいて、大変重要な意義を持つものと言えます。 - 協働のメリット
- (1) 行政のメリット
- ① NPOの柔軟性や迅速性、専門性などのNPOの特性を行政施策に反映することができます。法律や予算に基づいて公平・平等なサービス(均一的なサービス)を行うことを基本とする行政においては対応が難しいと考えられる今日的な県民ニーズに対応し、より利用者のニーズに沿った公共サービスを迅速に提供することが可能になるものと考えられます。
- ② NPOと行政が協働することで、お互いに役割分担をしていくことになれば、これまで競合していた事業を見直すことにつながります。
これまで、公益的な活動は行政が独占的に行うものとの認識が根強い中で、行政が肥大化する傾向が見られました。しかし、NPOが実施できる部分をNPOに任せることを検討する中で、行政の機能の純化やサービスの効率化、質的向上といった行政の自己改革が進むものと考えられます。 - ③ NPOは地域に密着し、より市民の側に立って活動しており、その活動を通じて多様な市民の意見を引き出すことができます。市民と行政の接点となるNPOと協働することで、市民の行政への参加がより一層進むことが期待できます。
- (2) NPOのメリット
- ① 自らの特性を活かしながら、組織が掲げる使命をより効果的に実現することができるようになるとともに、活動の場や幅が広がること
- ② 行政が持つ情報や調査力を活用できること
- ③ 委託費や助成金収入により財政基盤が安定すること
- ④ NPOの持つ情報や知識を行政に公式に伝えることができるようになること
- などが考えられます。
- (3) 県民のメリット
- ① ニーズにマッチしたきめ細かで柔軟な公共サービスが受けられるようになること
- ② 行政が身近なものになること
- ③ NPOの活動が活性化することで、新しい雇用の機会の拡大も期待されること
- などが考えられます。
- (1) 行政のメリット
- 協働の現状と課題
石川県の各部局におけるNPOとの協働の状況は、「NPOとの関わりに関する実態調査」(県民交流課調)によれば、平成13年度は、NPOへの事業委託が19件、補助・助成が15件あるほか、イベントの後援や構想の策定にあたり意見を聞く等の協働が若干見られます。
全体としては、協働はまだ十分に進んでいないと言えますが、その理由としては、県内のNPOには萌芽的段階の団体が多いことのほか、NPOの実態の詳細な把握が難しいこと、協働に関わる情報が不足がちであること、職員の協働に対する理解が十分に浸透していないことなどが考えられます。 - 求められる職員の意識改革
職員のみなさんは、公共サービスは行政が独占的に担うものと意識してはいないでしょうか。また、NPOの活動については、行政の施策に対立するものといったイメージを抱いてしまい、協働ということに違和感を感じてしまうという職員もいるかもしれません。一方、NPO活動は単なる行政の下請的、補助的活動に過ぎないものと考えている職員もあるかもしれません。
県内のNPOは、小規模かつ脆弱なものが多いことから、現状では行政や企業と対等とは言い難いかもしれません。しかし、これから、NPOが行政とは違う発想で地域に密着したきめ細やかな各種のサービスを提供し、活動が活発化していくようになれば、それらの活動が社会で果たす役割について、私たちは認識を新たにし、さらに深めていくことになるでしょう。
今、行政には、公益的活動を県民の税負担により独占的に行っていくのではなく、限られた財源の中で効率的で質の高いサービスを提供することが求められています。そのために、私たちは「NPOとの協働」という新しい切り口で業務を見直し、自己改革を進めることが求められているのです。
第3章 協働事業を進めるために~NPOとの協働はどのように進めたらよいのでしょうか~
- 協働を進めるための留意点
- (1) 互いの特性や違いを理解する
NPOとの協働を進めるためには、NPOと行政双方の特性や違いについて理解を深めておくことが重要です。
NPOと行政が公共性という同じ基盤を持ちながらも、活動主体としてはそれぞれ異なる性質を持っているということ、異なる性質のものがお互いの長所を生かすことによってよりよい公共サービスの提供が可能になるということを十分に認識することが、これから協働事業を進めていくうえで大切です。
しかし、性質が異なることから、協働を進めるうえで混乱や困難を伴う場合があります。職員のみなさんも、NPOはよく分からない異質なものとして、これまで一線を画してきたということはないでしょうか。NPOと接触してみると、いろいろな場面で戸惑いを感じることもあるかもしれません。これは、NPOにとっても同じで、立場や特性などが異なるのですから、当然と言えます。
日頃から、双方の特性や違いについて十分に自覚し、NPOとの意見や情報の交換を重ねながら、意思の疎通を図っていくことが重要です。NPOと行政の特性については第1章の2に述べたとおりですが、両者には、次のような違いがあります。
- ア 受益圏・受益層の違い
NPOの受益圏は、NPOが独自に定めればよく、活動の内容や発展により変化することもあります。行政区域にとらわれることなく、複数の行政区域にまたがっても、また、行政区域のうちの一部の地域であってもよいということです。
一方、行政の受益圏はその行政区域に限られるものであり、また、行政区域全域に均等にサービスがいきわたることが求められます。
受益層についても、NPOは特定の層に特化することができますが、行政はあらゆる層が公平に受益層となることが原則となります。 - イ 組織の規模・形態の違い
NPOは、様々な規模・形態のものがありますが、一般的には専従スタッフが数人という規模で、行政組織とは比較にならないほど小さく、このため、行政とは活動の進め方を違えざるを得ないと言うことができます。
NPOの専従スタッフはいわゆる「何でも屋」として、一人でいろいろな任務を負って活動する場合が多く、一方、行政組織は大きいが故に縦割りとなりがちであり、一人ひとりの仕事の範囲は狭くなると言うことができます。 - ウ 収入構造の違い
行政の収入は法令等に基づき徴収した税金であり、ある程度安定していると言え、事業の執行は議会の承認を受けた予算に基づき行われます。
一方、NPOの収入は個人や企業からの自発的な会費や寄附、財団等からの助成金や行政からの補助金及び自主事業や委託事業に伴う収入であり、概して不安定と言うことができます。
また、NPOにおいても一応予算が立てられることはありますが、予算の遵守や執行にあまりこだわらないのが特徴と言えます。このため、行政の予算主義について、柔軟性に欠け、硬直的であると見られることがあるようです。 - エ 行動原理の違い
NPOと行政のスタッフでは行動の原理が異なっていることを認識することが重要です。
NPOはそれぞれ様々な社会的使命(ミッション)を掲げて自主的に活動していますが、スタッフはこのようなミッションに共鳴して参加しており、自発的に行動しています。個人の自主性が尊重され、自己責任で行うことから、かなりの自由もあると言えます。このことは、時には組織としての行動を曖昧にし、混乱させることもありますが、NPOの長所と言ってもよいと思われます。
一方、私たち職員は、首長の施政方針のもとに、法令や予算に基づき行動することが当然です。
また、職員は人事異動があることから、NPO側から見ると数年ごとに担当者が替わり、それまでの積み上げが十分に継承されないためにもどかしさを感じるとの声もあり、協働する場合の現場レベルの課題であると考えられます。 - オ 時間感覚の違い
NPOと行政では、特に「年度」に対する意識の強弱が異なることも言われています。
行政職員が4月~3月の年度意識を高く持って行動することは当然ですが、NPOでは、年度を設定しているものの、行政ほど年度意識にはとらわれず、年度内の予算執行という考え方は希薄と言えるのではないかと思われます。このようなことが「柔軟性」、「迅速性」といったNPOの特性を引き出していると言えますが、行政から見た場合は、事業委託などでNPOが頼りないというように映るかもしれません。
また、NPOの活動は、土曜・日曜に行われることも多く、平日の活動は夜になることも多くなります。NPOと一緒に何かしようと思うと、平日の昼間が勤務時間である行政では、このような時間感覚の相違にぶつかることがあります。
- ア 受益圏・受益層の違い
- (2) 協働の目的を明確に持つ
様々な点で異なるNPOと行政が協働していくために、まず考えなくてはならないことは、当該事業についてなぜ協働することが必要なのか、なぜ当該NPOを協働の相手方として選択するのかという点です。
協働にあたっては、まず、県民のニーズを的確に把握したうえで、これらについて十分検討を行い、事業の具体的な目標を明確にすることが重要です。
このような目標設定にあたっては、日常からNPOと接し、その意見を聞いておくことも大切です。 - (3) 情報公開を積極的に行う
現状では、NPOと行政の相互理解は決して十分できているとは言えません。協働を進めるためにはお互いの相互理解が不可欠ですが、このような状況の中で信頼関係を築いていくためには、行政から積極的に情報を公開していくことが必要です。
特に、NPOの事業への積極的な取組を促すためには、計画の構想段階から情報提供を行い、共に考えるという姿勢を持つことが求められます。
平成13年8月に設置した石川県NPO活動支援センターでは、パンフレットや冊子を置いてNPOや市民が自由にそれらを取得したり、閲覧できる情報コーナーを設置するとともに、NPO情報ネットワークシステムの整備や情報誌「いしかわNPOニュース」の発行などを行っており、これらの利用も一つの方法と考えられます。 - (4) 競争原理を導入する
協働にあたり特定のNPOだけをその相手方とすることには問題があります。行政は公平、平等が原則であり、協働事業の内容にもよりますが、できる限り多くのNPOが参加の機会を得られるよう留意しなければなりません。幅広く情報提供を行い、競争原理が働くようにすることが必要です。
また、事業内容によっては、企業や公益法人等とも協働の可能性があるものもあり、それらとの関係についても十分留意することが必要です。
- (1) 互いの特性や違いを理解する
- 協働の手順
NPOとの協働事業を進めるための手順としては、①協働にふさわしい事業の検討、②適切な協働形態の選択、③協働の相手方の選定、④事業の実施、⑤評価という順になりますが、各々の場面での留意事項等は次のとおりです。
-
(1) 協働にふさわしい事業の検討
(新たな事業を検討する場合の視点)
NPOとの協働の意義は第2章に述べたとおりですが、行政だけで実施するよりも、県民ニーズを満たし、よりよい成果をあげることができるということが協働を進めるにあたっての基本的考え方です。
NPOと行政はお互いに非営利・公益分野を担うものですが、事業により協力できるものもあれば、対立や競合する場合もあります。実態としては、それぞれが独自に活動している場合がほとんどですが、これからは、双方の役割分担を明確にし、公共サービスの質や量の充実、あるいはコストの削減等協働の基本的考え方を意識しながら、協働にふさわしい新規事業や既存事業の見直しについての検討を積極的に進めることが求められます。また、事業の一部を協働することにより、一層効果が上がる場合も考えられ、そのような視点からの検討も重要です。
そして、これらの検討にあたっては、NPOの意見を聞くことも大切です。- ① 行政が実施すべき事業か。
- ② 当該事業に県民の高いニーズがあるか。
- ③ 協働によってNPOの特性を活かしたサービスが提供できるか。
- ④ 協働によってコストの低減が図られるか、又は、同程度のコストでサービス内容等の充実が図られるか。
- ① 協働することによって、より県民ニーズに合ったサービスが提供できるか。
- ② 協働することによって、サービスの質・量が充実するか。
- ③ 実施方法は効率的か。
なお、既存事業の見直しにあたっては、NPOと競合する事業について、撤退するのか、委託するのかということについても検討することが必要でしょう。
NPOとの役割分担の考え方NPOと行政の役割分担と責任の範囲については、日常的に検討しておくことが大切ですが、次の図のようなことが参考になると思います。
(図-2 市民セクターと行政セクターの諸相の概念図(出典:山岡義典「NPO基礎講座」)
図のAはNPO(市民セクター)が主体的に活動を行う領域。B~Dは行政とNPOがそれぞれの役割に応じて協働する領域。Aに近いほどNPOが主体であり、Eに近いほど行政が主体の領域を示します。Eは行政が責任を持って対処すべき領域です。Bの部分はNPOが主となり行政が支援する領域、Cは行政とNPOが対等の責任で行う領域、Dは行政が主でNPOが手伝う形の協働領域を示しています。協働の形態をこの図式にあてはめると、Bは補助・助成、Cは共催、Dは事業委託に馴染む領域と考えられます。
この図は、あくまでもモデルとして示されているものであり、A~Eの領域の量的な割合は異なることが前提ですが、担当の事業や業務がどの領域に該当するのかを検討することは、協働事業を進めるうえで大切なことです。- (2)適切な協働形態の選択
NPOとの協働には様々な形態が考えられますが、具体化にあたっては、最も効率的で効果的な協働となるよう、適切な選択が求められます。
また、各々の協働形態における役割分担や経費負担について、明確にしておくことも大切です。
協働の形態及びその選択にあたっての留意事項は次のとおりです。- ア 共催
協定等によりNPOと行政がともに主体となって、一緒に事業を行うことです。両者が対等な立場で役割分担を行い、責任の所在を明確にすることが必要になります。また、企画段階から一緒に始めることが大切で、実行委員会形式のものもよく見られます。 - イ 事業委託
これまで行政の責任分野として考えられてきた領域について、NPOに委託し実施するものです。行政にはない専門性、先駆性やNPOが持つネットワークの活用が求められるような事業に有効です。
事業委託は、本来行政が行うべき業務を委託するもので、その責任は原則として行政が負わなければなりません。まず、行政の責任を明確にしたうえで実施することが必要です。
また、事業委託する方が行政で実施するよりもより県民ニーズを満たし、よりよい成果を上げられるということが前提であり、事業を見直すという視点に立ち、役割分担を図りながら、委託を検討することが大切です。コストダウンや効率性という面も大事なことですが、そのために無理矢理NPOに押しつけるやり方は、NPOの反感をかったり、サービスの低下にもつながりかねず、避けるべきです。
NPOに安易に責任を転嫁したり、安上がりのために委託するものではないという意識を強く持って対応することが望まれます。 - ウ 資金助成
NPOに対する補助金についても、「育成のための支援」ということではなく、両者の共通した目的達成のための手段としてとらえられれば、それは協働ということになると考えられます。
ただ、資金助成によってNPOが安定的に活動するというようなことが続くと、NPOは行政に依存する体質となってしまい、NPOの最も大切な特性である自立性が失われてしまう恐れがあります。そのあたりを十分注意することが必要で、原則的には有限的な助成とすることが必要と考えられます。また、対等な契約関係による委託の形にできないか検討することも必要と思われます。 - エ 後援
NPOの事業に対して行政が「後援」という形式で名を連ねることは、NPOに信用を付与することになり、社会での信頼が増し、活動への理解を深めることに結びつきます。
逆に、行政主催のイベント等にNPOが後援することも、県民の親しみや地域との密着性が生じるなどのメリットが生まれます。 - オ 政策提言
特定の分野で企業や行政に引けを取らないほど高度で専門的な知識や技術を持ち、また、地域に密着したきめ細やかな活動経験の蓄積を背景に、行政の施策等に対して独自の企画や代案を提案するNPOもあります。
内容によっては、対応が難しいものもあるかもしれませんが、前向きに取り入れる姿勢が大切です。 - (3) 協働の相手方の選定
NPOの活動は様々であり、また、同じ目的を持っていても、その達成の方法はまちまちです。効果的に協働事業を進めるためには、このような多様なNPOの中から最も事業に適したNPOを選定することが求められます。
相手方の選定のポイントとしては、①活動内容・実績、②事業遂行能力、③財政状況(自立性財源の多様性、事業委託の比重の相対性等)、④運営の透明性、⑤事務局体制が挙げられ、これらを総合的に検討して選定することが必要であり、日頃の情報収集が重要です。
なお、NPO法人の活動状況については、毎年県への報告が義務付けられており、NPO活動支援センターで事業報告書等を閲覧することができることになっています。また、NPOが参加する各種の行事に一緒に参加することも情報収集の役に立つでしょう。
なお、相手方の選定にあたっては、公平性を図るため、その基準について情報を公開するとともに選定結果を公表することも大切と言えます。
- ア 共催
- (4) 協働事業の実施
実際にNPOと協働事業を進めるにあたっては、事前に、事業の目標や協働形態に対する考え方について十分に話し合い、双方が共通の認識を持って臨むことが大切です。 また、事業実施中も各々の役割分担に従い、誠実に対応するとともに、定期的に協議の場を持ち、適切な事業の執行が確保されるよう努めることが重要です。 - (5) 協働の評価
NPOとの協働によって行われた事業については、その目的が達成されたかどうか、協働することによってより効果的なサービスが提供できたかなどについて、評価をすることが必要です。
評価のルール化については、協働がまだ十分に進んでいないこともあって、他県においてもようやく研究が始められたばかりの状況であり、本県にとっても、これから協働事業を実施していく中で検討を進めるべき重要な課題と言えます。
現段階では、協働の評価は、次に例示するような観点から行うことが考えられます。- ① 協働手法を用いたことの適否
・目的は達成されたのか。
・効率的、効果的な事業運営ができたか。
・単独で行うよりも高い成果が得られたか。 - ② 協働相手選定の妥当性
・選定基準は妥当であったか。
・選定方法は妥当であったか。
・選定理由は妥当であったか。 - ③ 目標設定の妥当性
・目標設定は円滑にできたか。
・適切な目標設定ができたか。 - ④ 目標達成度
・予定どおり目標が達成されたか。
・県民の満足度は高まったか。 - ⑤ 採用した協働形態の妥当性
・双方の役割分担は的確にできたか。
・NPOの特性が十分に発揮されたか。
・責任の所在は明確にされたか。
・成果物の帰属について適正に処理されたか。 - ⑥ 費用対効果
・コストの低減又はサービスの向上が図られたか。
・効果に見合うコストとなっているか。 - 特に、同じNPOと協働が継続して行われる場合には、依存度の高まりによってNPOの自主性、自発性を損なったり、特定のNPOの既得権益化を招いたりすることがないよう、きちんと評価することが大切です。
評価の結果を次の協働事業に反映していくことは、より効果的で質の高い公共サービスを提供するために重要であり、評価結果を公表することも大切です。
- ① 協働手法を用いたことの適否
-
第4章 NPOへの事業委託~NPOへの事業委託の具体的な進め方~
今後、NPOとの共同事業を円滑に推進するため、この章では、特にNPOへの事業委託について堀り下げて、説明したいと思います。
- 委託事業の選定
協働にふさわしい事業や協働形態の選択については第3章で述べたとおりですが、特に、NPOとの協働事業として委託事業を選択する場合は、その専門性や迅速性などの特性を生かし、より効率的、効果的な事業の執行や成果が期待できるという視点で事業を選定することが大切です。 - 委託先の選定
- (1) 発注方法
県が事業委託契約を締結する場合は、一般競争入札によることが原則ですが、NPOへの事業委託については、その特性から地方自治法施行令第167条の2第1項第2号の適用による随意契約とすることが多くなるようです。随意契約の理由としては、①業務の特殊性から当該NPO以外に委託先がないこと、②業務の内容からNPOの専門性等の特性を生かすことが必要なことなどが挙げられます。
随意契約によるNPOの選定、発注方法としては、業務内容に応じ、基本的には次の3通りの方法が考えられます。- ア NPO間の価格競争による選定が適切な場合
- ①業務の基本的な仕様書(事業費を含まない)を示して、公募により業務執行の方法や体制等をまとめた業務執行計画書の提出を求める。
- ②業務執行計画書に基づき、業務の履行が十分に可能と思われるNPOを選考する。
- ③ ②で選ばれたNPOに対して、詳細な仕様書を示して見積書を徴収し、価格競争により決定する。
- イ 価格競争によらず、企画力等のあるNPOを選定することが適切な場合
- ①テーマや業務の基本的な仕様書(事業費を含む)を示して、業務企画提案書をNPOから公募し、企画力や内容及び履行能力の面で最も優れたものを選定する。
- ②選定にあたっては審査機関を設置し、第三者を審査員に加えるなど透明性を確保する。
- ウ 業務を履行できるNPOが特定1団体に限られている場合
- ①業務の基本的な仕様書(事業費を含む)を示して、当該NPOに履行内容、方法、体制等について業務企画提案書の提出を求め、履行能力等について十分審査する。
- ②当該事業を実施できるNPOは、特定の1団体であることを明確にする。
- ア NPO間の価格競争による選定が適切な場合
- (2) 委託先の要件
委託契約の相手方としては、法人格の有無は必要ないと考えられますが、県の事業として確実に事業を履行できるだけの能力を確保するため、事業内容によって、一定の要件を課すことも必要です。
このような要件の例として、次のような事項が考えられ、事業内容に応じて適宜選択すればよいと思います。
①特定非営利活動法人(NPO法人)又は任意団体であること。
②委託事業に沿った活動を通常の活動の中でも実施している団体であること。
③県内に事務所を有し、県内を中心に活動していること。
④団体の活動歴が、設立から○○年以上あること。
⑤団体を構成する正会員が○○人以上いること。
⑥過去2年の決算及び本年度予算が○○万円(委託事業をこなせる能力が判定できる数値)以上であること。
⑦事業の記録保存と成果報告ができること。
⑧宗教活動や政治活動を主たる目的とした団体ではないこと。
⑨特定の公職者(候補者を含む)、又は政党を推薦、支持、反対することを目的とした団体でないこと。 - (3) 企画提案書等の審査
内部だけで審査するのではなく、第三者やNPO関係者を含めた審査機関を設け、審査することが大切です。また、審査基準を設けるとともに、その内容や審査の結果について公開することも重要です。
- (1) 発注方法
- 契約の締結にあたっての留意点
- (1) 仕様書の作成にあたって
行政は計画的に事業を実施していくことが当然ですが、NPOには、事業を実施していく中で、事業内容が変わっていくことを当然ととらえているものも見られることから、むやみに仕様書を変更できないことを十分に説明し、理解を得ておくことが重要です。 - (2) 見積書の徴収にあたって
見積書をとる場合、NPOの多くは作成経験が少ないため、事業内容との整合性等について十分審査することが大切です。
また、NPOは継続的に活動していくための経費を必要とすることから、人件費等の所要の経費については、企業に対するものと同様に考える必要があります。 - (3) 契約書の作成にあたって
NPOとの契約書であるからと言って、必ずしも特別なものは必要ないと考えられますが、協働事業であることを双方が確認する意味でも、契約書の中に協働の意義に基づいた事業執行を目指している内容を盛り込むことが望ましいでしょう。 - (4) 支払いにあたって
委託事業に係る経費の支払いは、事業の履行確認後の支払いが原則ですが、NPOの資金的側面に配慮する必要がある場合も多いことから、相手方の事情を十分に把握したうえで、可能な範囲で前金払いや概算払いにより、事業の円滑な執行を図ることも大切です。
- (1) 仕様書の作成にあたって
- 事業の実施
NPOの自主性を生かすためにも、委託事業の実施段階であまり口出しすることは避けるべきですが、月に1回程度は進捗状況を協議する場を設け、両者で問題点等について話し合うことが望ましいと考えられます。 - 事業完了後の事務手続
NPOは役所の手続に不慣れであることが多いため、業務完了報告書の提出が必要な場合や事業完了の確認は県の検査をもって行うことなど、事業完了後の手続について、事前に十分説明し、NPOの理解を得ておくことが大切です。
- 県からNPOへの事業委託例
NPO人材育成研修事業(県民交流課) 委託先 事業内容 委託方法 委託理由 (特)いしかわ市民活動ネットワーキングセンター NPO活動を担う人材を育成するため、NPOのマネジメントに関する連続講座を金沢及び七尾において開催。 企画公募 日頃からNPOに接し、NPOの現状やニーズを十分に把握している団体に委託することで、効果的な方法、内容により実施することができる。 若年者の朝食推進事業(健康推進課) 委託先 事業内容 委託方法 委託理由 石川県食生活改善推進協議会 若い世代に対し朝食の大切さを啓発するため、朝食コンクール及び朝食メニュー集を作成するとともに、料理教室や健康教室を開催 1者随契 県内全域に事業を普及させるためには組織力が必要であり、全県にネットワークを持ち、かつ、食生活改善に専門的な経験と知識を有する団体に委託 「小さないしかわ動物園」づくり推進交流会開催事業(自然保護課) 委託先 事業内容 委託方法 委託理由 いしかわビオトープ研究会 「小さないしかわ動物園」づくりを県民運動として推進するため、ビオトープづくりの手法や管理に関する学習、情報交換等を行う交流会を開催。 1者随契 ビオトープに関する専門的知識やネットワークを生かし、効果的な事業の実施が図られる。 - 他県におけるNPOへの事業委託例
動物愛護と動物介在活動(三重県) 委託先 事業内容 委託方法 ポイント (特)人と動物の共生をめざす会 犬のしつけ方教室の開催、動物介在犬の育成と犬による保育所、幼稚園、社会福祉施設への訪問活動、動物愛護週間の啓発活動等 1者随契 県民の動物愛護意識の向上を図るためには、行政による事業の押しつけであってはならないとの意識から、動物愛護団体と協働することで、県民参加型の事業展開を図ることとした。 おうみ子ども未来会議事業(滋賀県) 委託先 事業内容 委託方法 ポイント NPOこどもネットワークセンター天気村 県内7ヶ所で募心活動(県民の声や思いをアンケートで回収)を行い、県立びわ湖こどもの国において意見交換を行った。子ども未来宣言を採択し県民に提案。 1者随契 県内の子どもたちの意見を集めるイベントについて、子どもの活動分野に強いNPOが企画・コーディネート力を発揮することで、多大な人員が躍動的に動くことができた。 生ごみリサイクルモデル構築委託事業(大阪府) 委託先 事業内容 委託方法 ポイント シティズンホームライフ協会 家庭から生ごみを収集、肥料化し、農産物を生産するなど、生ごみのリサイクルシステム構築のための調査、研究。リサイクル事業に係る野宿生活者等の就労機会の創出等の調査。 1者随契 府内の生ごみ堆肥化の実践事例を調査したところ、広域的に複数家庭から生ごみを収集し堆肥化を図っている団体は委託団体のみであること及び野宿生活者対策に取り組むNPOに協力して活動を行っており、そのネットワークが活用できることから委託先を決定。
第5章 協働のこれからの課題
~県民サービスの向上を目指し、自覚を新たにNPOとの協働を進めましょう~
- 石川県におけるNPOとの協働はまだ始まったばかりです。NPOに関する情報も決して多いとは言えず、協働の相手方となる企画や事業遂行能力を備えたNPOもまだ少数と言わざるを得ない面も見られます。
- しかし、これまで述べてきたとおり、これからの社会ではNPOと行政との協働は、よりよいサービスを県民に提供し、豊かで活力のある地域社会を創造するうえで欠くべからざるものと言え、NPOと行政双方の意識改革や体制整備が望まれます。
- このため、事業委託をはじめ、協働に関する適切なルールづくりが必要と考えられますが、これは、協働事業を実際に進める中での経験の蓄積をもとに、双方の合意により形成していくことが必要でしょう。
- 特に、委託の場合には、相手方となるNPOの選定方法について、現段階では特定の団体との随意契約によるものがほとんどのようですが、より多くのNPOが参入できる公募型に切り替えていくことも課題と考えられます。
- また、協働事業についての評価システムを開発するなど、NPOと行政双方の事後的総括の方法をルール化することも課題でしょう。
- この手引を通じて、職員一人ひとりが自覚を新たに、県民サービスの向上を目指して、協働の大切さ等を業務の中で常に点検しながら、NPOとの協働を進めていただくよう期待したいと思います。